ゼロから始める創業術 Vol.42|「社長一人」の限界。外注・採用を始めるタイミングと判断軸
こんにちは、税理士の林です。
「もう限界です。毎日12時間働いているのに、やるべき仕事が全然終わらないんです」——先日、創業2年目のIT企業の社長からこんなご相談をいただきました。話を聞いてみると、経理も営業も実務もSNSも、すべて社長一人でこなしていたんです。
実は、創業当初は「自分ひとり」で何でもこなすのが当たり前なんですよね。コストも抑えられますし、誰かに頼むより自分でやった方が早いと感じる方も多いと思います。でも、あるタイミングで必ずぶつかるのが、「これ以上、一人では回らない」という壁なんです。
正直に申し上げると、この壁を乗り越えられるかどうかが、事業が成長するかどうかの分かれ道になります。今回は、100社以上の創業支援をしてきた経験から、外注や採用を始めるべきタイミングと、その判断軸について詳しくお話しさせていただきますね。
■ なぜ「一人経営」には限界があるのか?
創業当初は、コストを抑えるために何でも自分でやるのは自然な流れです。私がサポートしてきた創業者の方も、ほとんどが最初は一人で全部やっていました。気持ちはよく分かります。
でも、一人で対応できる時間・体力には物理的な限界があります。1日は24時間しかありませんし、人間には休息も必要です。そして何より、仕事が増えるほど「機会損失」が大きくなっていくんです。
実際にあった話なんですが、あるデザイン会社の社長が、制作業務に加えて経理処理や請求書発行まで全部自分でやっていました。その結果、新規営業に使える時間がほとんどなくなってしまったんです。月の売上は50万円で頭打ち。経理作業に毎月15時間かけていましたが、その時間を営業に使えば、月に3〜4件の新規案件が取れたはずなんですよね。
つまり、「自分でやれば無料」というのは錯覚なんです。本業(売上を生む仕事)に集中する時間を確保するためにも、ある時点で「任せる」判断が必要になります。
■ 外注と採用、どちらを選ぶべきか?
「人に任せる」と言っても、外注(業務委託)と採用(雇用)の2つの選択肢があります。どちらを選ぶべきか?これは、本当によく聞かれる質問なんですよね。
まずは「外注」から始めるのが現実的
多くの創業者にとって、「まずは外注から始める」というのが現実的な選択です。なぜなら、外注は固定費ではなく変動費だからです。
採用すると、毎月の給与(最低でも月20〜25万円)、社会保険料(給与の約15%)、労働保険料などの固定費が発生します。仮に月給25万円の社員を雇うと、会社の実質負担は月約30万円、年間で360万円になります。
一方、外注なら必要な時に必要な分だけ依頼できますし、業務量が減れば契約を調整できます。リスクが低く、柔軟性が高いんですね。
外注に向いている業務・採用が適している業務
では、どんな業務を外注すべきか、どんな業務は採用すべきか?私がお勧めしている判断基準をご紹介しますね。
【外注に向いている業務】
- 専門性が高く、スポット的な業務(デザイン、Web制作、動画編集)
- 月に数時間〜数十時間程度の業務(経理代行、SNS運用)
- 成果物が明確な業務(記事執筆、翻訳、システム開発)
- 業務量が変動しやすい業務(繁忙期だけ依頼したいなど)
【採用が適している業務】
- 継続的に発生し、フルタイムで必要な業務(営業、カスタマーサポート)
- 社内ノウハウの蓄積が必要な業務(製造、商品開発)
- 顧客と直接やり取りする重要な業務(コンサルティング、設計)
- 教育・統一が必要な業務(接客、品質管理)
あるコンサルティング会社の社長は、最初に経理を外注し、次にSNS運用を外注、その後、営業担当者を1名採用するという順番で進めました。その結果、社長は本業のコンサルティングに集中でき、売上が半年で2倍になったんです。
税務上の注意点:外注費と給与の違い
ここで税理士として重要な注意点をお伝えしますね。外注費と人件費では、税務上の扱いが全く異なります。
実は、「外注」として処理していても、実態が「雇用」と判断されると、税務調査で給与として否認されることがあるんです。否認されると、源泉所得税の追徴、消費税の修正、さらに延滞税・加算税が課される可能性があります。
外注か給与かの判断基準は以下の通りです:
- 指揮命令系統があるか(時間・場所を指定しているか)
- 他の仕事を受けられるか(専属性があるか)
- 成果物に対する報酬か、労働時間に対する報酬か
- 材料や道具を誰が提供しているか
実際に、ある建設業の会社が「外注費」として処理していた職人に対して、税務調査で「これは実質的に雇用関係だ」と指摘され、過去3年分の源泉所得税約200万円を追徴されたケースがありました。契約書の作り方や業務の実態が重要なんです。
■ どのタイミングで外注・採用を考えるべきか?
「いつから外注や採用を始めればいいですか?」——これも本当によく聞かれる質問です。明確な基準は事業内容によりますが、以下のいずれかに該当すれば、検討を始めても良いタイミングです。
タイミング1:売上が安定して月50万円以上になった
月の売上が安定して50万円以上になったら、外注を検討する良いタイミングです。利益率が30%なら月15万円の利益が出ていますから、そのうち月5〜10万円を外注費に回しても、十分に経営が成り立ちます。
あるWebデザイナーの方は、月の売上が安定して60万円になった時点で、経理作業を月3万円で外注しました。その結果、浮いた時間で営業活動を強化でき、3か月後には月80万円の売上になったんです。外注費3万円を払っても、手元に残る利益は増えたわけです。
タイミング2:1日の業務時間が10時間以上続いている
毎日10時間以上働いている状態が続いているなら、それは完全にキャパオーバーです。このまま続けると、体調を崩したり、品質が低下したりするリスクがあります。
実際に、あるコンサルタントの方が、毎日12時間働く状態を1年続けた結果、体調を崩して2か月間仕事ができなくなってしまいました。その間、売上はゼロ。もっと早く人に任せていれば、こんなことにはならなかったんです。
タイミング3:本業以外の業務が週10時間以上ある
経理処理、請求書発行、SNS投稿、メール対応など、本業以外の業務に週10時間以上使っているなら、外注を検討すべきです。
週10時間ということは、月40時間。この時間を本業に使えば、月に何件の新規案件が取れるでしょうか?仮に1件あたり10万円の案件なら、4件で40万円の売上増です。外注費10万円を払っても、30万円の利益増になりますよね。
タイミング4:案件を断っている状態が続いている
「忙しくて受けられません」と案件を断っている状態なら、それは最悪の機会損失です。今すぐに外注や採用を検討すべきです。
ある制作会社の社長は、月に3〜4件の案件を「キャパオーバー」で断っていました。1件あたり20万円の案件なので、月60〜80万円の機会損失です。アルバイトを1名採用(月15万円)したところ、すべての案件を受けられるようになり、月の売上が50万円増えました。
■ よくある失敗パターン「こんな外注・採用は危険」
外注や採用を始める際に、よくある失敗パターンをいくつかご紹介しますね。これを知っておくだけで、リスクを大幅に減らせます。
失敗例1:売上が不安定なのに正社員を採用する
月の売上が30万円だったり50万円だったりと不安定なのに、いきなり正社員を採用してしまうケースです。正社員の人件費は固定費ですから、売上が下がっても支払いは続きます。
実際に、あるスタートアップが、売上が不安定な状態で社員を3名採用してしまい、半年後に資金繰りが悪化。結局、社員に辞めてもらうことになり、社長は精神的にも大きなダメージを受けました。売上が安定するまでは、外注やアルバイトで対応するのが賢明です。
失敗例2:マニュアルがないまま丸投げする
「よろしくお願いします」と言って、何の説明もなく丸投げしてしまうパターンです。外注先や新入社員は、あなたの頭の中を読めません。
ある経営者は、経理を外注したのに、領収書の整理方法も説明しなかったため、外注先が混乱。結局、自分で説明する時間が増えてしまい、「外注した意味がない」という状態になってしまいました。最低限のマニュアルや指示書は必要なんです。
失敗例3:安さだけで外注先を選ぶ
「とにかく安ければいい」と考えて、クラウドソーシングで最安値の人に依頼してしまうケースです。価格と品質は、ある程度比例します。
あるWeb制作会社が、デザイン業務を格安で外注したところ、納品物のクオリティが低く、結局自分で修正する羽目になりました。時間をかけて修正するくらいなら、最初から適正価格で依頼した方が結果的に安上がりです。
■ まとめ|「任せる勇気」が成長のカギ
一人経営には必ず限界が来ます。その限界を超えるためには、「任せる勇気」が必要です。最初は不安かもしれませんが、適切なタイミングで外注や採用を始めることで、事業は確実に成長します。
まとめると、外注・採用を検討すべきタイミングは以下の通りです:
- 売上が安定して月50万円以上になった
- 1日の業務時間が10時間以上続いている
- 本業以外の業務が週10時間以上ある
- 案件を断っている状態が続いている
そして、最初は外注から始めて、事業が安定してから採用を検討するのが現実的です。ただし、税務上の取り扱いには十分注意してくださいね。
もし外注や採用のタイミング、税務上の注意点について不安がある方は、ぜひ専門家にご相談ください。一緒に最適な成長戦略を考えましょう。あなたの事業が、さらに飛躍することを心から応援していますよ。
外注・採用の判断や税務処理についてのご相談は、こちらからお気軽にどうぞ。
