ゼロから始める創業術 Vol.57|事業拡大期における人事戦略 ― 初級編

ゼロから始める創業術 Vol.57|初めての従業員採用で失敗しないための5つのポイント

こんにちは、税理士の林です。
先月、3年前に創業したカフェオーナーの方が相談に来られて、こう言われたんです。「忙しくなってきたので人を雇おうと思うんですが、正直、何から始めればいいのか分からなくて…」と。

この悩み、本当によく聞くんですよね。事業が軌道に乗って売上が伸びてくると、必ず「人手が足りない」という壁にぶつかります。でも、安易に人を雇って失敗するケースも少なくないんです。

実は私がサポートしてきた100社以上の中で、初めての採用で苦労した経営者の方は本当に多いです。「思っていたより給料以外のコストがかかった」「性格が合わなくて辞めてしまった」「雇ったのに売上が増えない」といった声を何度も聞いてきました。

今回は、初めて従業員を雇う時に絶対に知っておくべき5つのポイントを、実際の成功例と失敗例を交えてお伝えします。この記事を読めば、採用で失敗するリスクを大きく減らせるはずです。


■ ポイント1|「人を雇う」前に本当に必要か見極める

これが一番重要なんですが、多くの経営者が見落としているポイントです。「忙しいから人を雇う」という判断は、実は危険なんですよね。

人を雇うべきタイミングの3つのサイン

私の経験から、人を雇うべき明確なサインが3つあります。この3つのうち2つ以上当てはまったら、採用を検討すべきタイミングです。

  • サイン1:本業以外の作業に週15時間以上使っている(経理、SNS更新、清掃など)
  • サイン2:新規顧客を断っている、または対応が遅れている
  • サイン3:売上が前年比130%以上で3か月連続増加している

天神でマッサージサロンを経営するA社の場合、月間予約が60件から110件に増えたんですが、オーナー一人では対応しきれず、新規予約を月20件も断っていました。これは明らかに「機会損失」が発生している状態です。

客単価7,000円×月20件=月14万円、年間で168万円の売上を逃していたんですよね。人を雇えば人件費は月20万円かかりますが、それ以上の売上増加が見込めるなら、採用すべきタイミングなんです。

人を雇う前にやるべき3つの選択肢

でも、すぐに人を雇うのではなく、まず次の3つを検討してください。これだけで人手不足が解決することも多いんです。

  • 選択肢1:ITツールで自動化できないか(予約システム、会計ソフト、SNS自動投稿など)
  • 選択肢2:業務の外注ができないか(経理は税理士、清掃は専門業者など)
  • 選択肢3:営業時間や休日を見直せないか(週休3日にして集中営業など)

博多でカフェを経営するB社は、「人を雇う前に」予約システム(月3,000円)とレジの自動釣銭機(リース月8,000円)を導入しました。その結果、1日2時間の作業が削減され、オーナー一人で月商が180万円から240万円に増えたんです。人を雇わずに解決できた好例ですね。

ここに注意:「忙しい=人を雇う」ではありません。まず業務効率化やツール導入を検討し、それでも解決しない場合に採用を考えましょう。月20万円の人件費は年間240万円の固定費になることを忘れずに。


■ ポイント2|最初は「正社員」ではなく「パート」から始める

初めての採用で一番多い失敗が「いきなり正社員を雇ってしまう」ことなんです。正直に申し上げると、これは創業期の会社にとってリスクが高すぎます。

雇用形態ごとのメリット・デメリット

実際に、それぞれの雇用形態でどれくらいコストが違うのか、具体的な数字で見てみましょう。

  • 正社員:月給25万円+社会保険(約4万円)+賞与・退職金=年間約380万円
  • パート・アルバイト:時給1,100円×週20時間×4週=月約9万円、年間約110万円
  • 業務委託:案件ごとの支払い、社会保険不要、必要な時だけ依頼可能

薬院でネイルサロンを開業したC社は、最初から正社員を雇って月30万円の固定費を抱えました。しかし閑散期に客が減り、3か月で赤字に。結局、6か月で正社員を解雇せざるを得なくなり、退職金や有休消化で約60万円の追加コストが発生したんです。

一方、大名の美容室D社は、まず週3日・1日5時間のパートから採用をスタートしました。繁忙期は勤務時間を増やし、閑散期は減らすという柔軟な対応で、年間人件費を約100万円に抑えながら売上を150万円増やすことに成功しています。

パートから始めるべき3つの理由

  • 理由1:人件費が売上に連動させやすい(忙しい時だけシフトを増やせる)
  • 理由2:相性を見極める時間がある(3〜6か月試してから正社員登用も可能)
  • 理由3:解雇しやすい(正社員は簡単に辞めさせられないが、パートは期間満了で終了できる)

西新でパン屋を経営するE社は、パートを3か月雇って「この人なら長く働いてもらえる」と確信してから正社員にしました。今では店長として活躍しているそうです。最初から正社員にしていたら、相性が合わなかった場合のリスクが大きかったんですよね。


■ ポイント3|採用前に「業務マニュアル」を作る

これが意外と見落とされがちなんですが、人を雇う前に必ず「その人に何をしてもらうか」を明文化してください。マニュアルがないと、教育に膨大な時間がかかって本末転倒になります。

業務の棚卸しを1週間でやる方法

まず1週間、自分が何にどれくらい時間を使っているか記録してください。スマホのメモ帳で十分です。

  • 接客・施術:週30時間
  • 予約対応・電話:週5時間
  • 清掃・片付け:週4時間
  • SNS更新・広告:週3時間
  • 仕入れ・発注:週2時間
  • 経理作業:週2時間

この中から「自分じゃなくてもできる作業」を洗い出します。上記の例なら、清掃・予約対応・SNS更新の合計12時間は人に任せられそうですよね。

中洲で居酒屋を経営するF社は、人を雇う前に「開店準備マニュアル」「接客マニュアル」「閉店作業マニュアル」の3つをスマホで撮影した写真付きで作成しました。このおかげで、新人スタッフの教育が3日で完了し、オーナーは厨房業務に集中できるようになったんです。

簡単マニュアルの作り方

  • スマホで作業手順を写真撮影(10〜20枚程度)
  • Googleドキュメントに写真と簡単な説明文を貼り付ける
  • 「よくある失敗」と「注意点」を赤字で追記
  • 所要時間の目安を書く(例:清掃作業は30分程度)

完璧なマニュアルは必要ありません。60%の出来でいいので、とにかく「言葉にしておく」ことが大切なんですよね。マニュアルがあれば、同じ説明を何度もする手間が省けます。

よくある失敗:「教えながら覚えてもらえばいい」と思って採用すると、毎日2〜3時間を教育に取られて本業が進みません。結果、売上が下がって人件費だけがかさむという悪循環に陥ります。


■ ポイント4|人件費シミュレーションで「本当に払えるか」確認する

「人を雇ったら売上が増えるから大丈夫」と楽観的に考えるのは危険です。実際には、採用後すぐに売上が増えるとは限らないんですよね。

最低3か月は売上ゼロでも払える人件費か?

新人が戦力になるまで、通常3か月はかかります。その間は「コストだけかかって売上は増えない」期間なんです。この期間を乗り切れるかシミュレーションしてください。

  • 現在の月間利益:30万円
  • パート人件費:月10万円
  • 残る利益:20万円
  • これで3か月(計30万円)支払えるか?

姪浜でエステサロンを経営するG社は、月間利益が15万円の状態で月給20万円の正社員を雇ってしまいました。当然、毎月5万円の赤字が続き、3か月で貯金が50万円減少。結局、借入をして何とか乗り切りましたが、精神的にも金銭的にも大きな負担だったそうです。

人件費以外にかかる5つのコスト

給料だけじゃないんです。実際にはこれだけのコストがかかります。

  • 1. 社会保険料:給料の約15%(月10万円なら1.5万円)
  • 2. 労災保険・雇用保険:給料の約1%
  • 3. 求人広告費:1回5〜20万円(Indeed、タウンワークなど)
  • 4. 制服・備品代:1人あたり3〜5万円
  • 5. 教育期間の機会損失:あなたの時間を週10時間使う=本業の売上減

福岡市で飲食店を経営するH社は、パート月給10万円だけを考えていましたが、実際には社会保険料1.5万円、求人費用12万円(分割すると月1万円)、制服代4万円などで、初年度は月13〜14万円のコストになりました。

「給料の1.3〜1.5倍がトータルコスト」と考えておくと間違いありません。月10万円のパートなら実質13〜15万円、月20万円なら26〜30万円かかると思ってください。


■ ポイント5|「スキル」より「価値観」で選ぶ

最後のポイントですが、これが長期的には最も重要なんです。小さな会社の最初の従業員は、スキルより「人となり」で選んでください。

スキルは教えられるが、価値観は変えられない

正直に申し上げると、飲食店の接客スキルや美容室のアシスタント業務は、3か月あれば誰でも覚えられます。でも「時間を守る」「お客様を大切にする」「報告・連絡・相談をする」といった基本的な価値観は、教えても変わらないんですよね。

赤坂でカフェを経営するI社は、「バリスタ経験5年」という経験者を採用しました。技術は確かに高かったんですが、遅刻が多く、お客様への対応も雑。3か月で辞めてもらうことになり、求人費用と教育時間が無駄になってしまいました。

一方、大橋でパン屋を経営するJ社は、「未経験だけど、うちのパンが本当に好きで、毎週買いに来てくれるお客様」をパートで採用しました。技術はゼロでしたが、学ぶ意欲が高く、今では店長として月商300万円の店舗を任せられるまでに成長しています。

面接で確認すべき3つの質問

  • 質問1:「なぜうちの店で働きたいと思ったんですか?」→本気度と価値観の一致を確認
  • 質問2:「前の職場で嬉しかったこと、嫌だったことは?」→仕事への価値観を確認
  • 質問3:「お客様からクレームを受けたらどうしますか?」→問題解決能力と誠実さを確認

履歴書の経歴より、この3つの質問への回答の方が、その人の本質を表しています。「お金のため」だけでなく「あなたの事業に共感している」人を選んでください。


■ まとめ|焦らず、段階的に、確実に

初めての採用は、誰でも不安なものです。でも、今回お伝えした5つのポイントを押さえれば、失敗のリスクは大きく減らせます。

  • 本当に人が必要か、ツールや外注で解決できないか確認する
  • 最初は正社員ではなくパートから始める
  • 採用前に業務マニュアルを作っておく
  • 3か月分の人件費を無理なく払えるか計算する
  • スキルより価値観の合う人を選ぶ

人を雇うということは、その人の人生に責任を持つということでもあります。だからこそ、慎重に、でも恐れすぎず、適切なタイミングで決断してください。

もし「自分の状況で人を雇うべきか判断できない」「人件費のシミュレーションを手伝ってほしい」と思われたら、ぜひご相談ください。100社以上の採用をサポートしてきた経験から、あなたの事業に最適なアドバイスができると思います。

良い人材との出会いが、あなたの事業をさらに成長させるきっかけになることを願っています。

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