ゼロから始める創業術 Vol.44|知らなかったでは済まされない!創業者が陥る法務トラブル5選と回避術
こんにちは、税理士の林です。
「契約書って、口約束じゃダメなんですか?」——先日、創業間もないIT企業の社長からこんな質問をいただきました。話を聞くと、取引先との契約を口頭だけで済ませていて、後から条件で揉めてしまったそうなんです。
実は、法務のトラブルって、創業者の方が想像している以上に身近に潜んでいるんですよね。「知らなかった」では済まされない法律問題が、事業の足を引っ張ることも珍しくありません。正直に申し上げると、法務で失敗して廃業に追い込まれる会社も実際にあるんです。
今回は、100社以上の創業支援をしてきた経験から、創業期に最低限知っておくべき法務の基礎と、実際に起きた法務トラブルの事例をお話しさせていただきますね。資金調達や営業も大切ですが、法務を軽視すると本当に痛い目に遭います。
■ 創業者が必ず押さえるべき3つの法律
「法律なんて難しくて分からない」という方も多いと思います。でも、創業する以上、最低限押さえておくべき法律があるんです。これを知らないと、知らず知らずのうちに法律違反をしてしまう可能性があります。
1. 会社法:会社の「ルールブック」
会社法は、法人の設立、運営、組織について定めた法律です。株式会社を作るなら、資本金はいくら必要か、取締役は何人必要か、株主総会はどう開くか——こういった基本的なルールが決まっています。
実際にあった話なんですが、ある会社が取締役会の議事録を一度も作成していなかったんです。税務調査で指摘されて、過去5年分の議事録を慌てて作り直す羽目になりました。会社法では、取締役会を開いたら議事録の作成が義務なんですよね。
2. 税法:納税は「義務」です
税法は、事業で得た利益に対する法人税、消費税、所得税などについて定めた法律です。「税金は後で払えばいい」と軽く考えている方もいますが、納税は法律で定められた義務なんです。
ある飲食店の経営者が、消費税の申告を2年間放置していました。結果、本来の納税額200万円に加えて、延滞税と加算税で約50万円が追加されてしまったんです。知らなかったでは済まされません。
3. 労働関係法規:従業員を守るルール
従業員を雇うなら、労働基準法、労働契約法などの労働関係法規を理解する必要があります。労働時間、休日、賃金、解雇——すべてに法律上のルールがあるんです。
あるIT企業が、従業員に残業代を一切払っていませんでした。「固定給だから残業代は含まれている」と思っていたそうですが、実際には違法。労働基準監督署から是正勧告を受け、過去2年分の残業代約500万円を支払うことになってしまいました。
■ 創業者が陥る法務トラブル5選
ここからは、実際に創業者の方が陥りやすい法務トラブルを、具体的な事例と共にご紹介します。他人事ではなく、明日は我が身かもしれません。
トラブル1:契約書がない・内容が曖昧
最も多いトラブルが、契約書を作成していない、または内容が曖昧というケースです。
あるWeb制作会社が、取引先から「ホームページ制作を50万円で依頼したい」と口頭で依頼を受けました。契約書を交わさず作業を進めたところ、納品後に取引先から「こんなデザインは頼んでいない。代金は払えない」と言われてしまったんです。口約束だけだったので、証拠がなく、結局30万円で妥協するしかありませんでした。
契約書には、最低限以下の内容を明記すべきです:
- 業務内容(何をするのか)
- 納期(いつまでに)
- 報酬額(いくらで)
- 支払い条件(いつ、どうやって支払うか)
- 修正回数や範囲(どこまで対応するか)
- 著作権や知的財産権の帰属
「相手が信頼できる人だから」という理由で契約書を省略するのは危険です。契約書は「信頼のため」ではなく「トラブル防止のため」に作るものなんです。
トラブル2:知的財産権の侵害
商標権、著作権、特許権などの知的財産権を侵害してしまうトラブルも多発しています。
あるカフェが、人気キャラクターに似たロゴを無断で使用していました。半年後、そのキャラクターの権利者から損害賠償請求300万円を受けてしまったんです。「似ているだけだから大丈夫だと思った」では通用しません。
また、自社の商標を登録していなかったために、後から他社に商標を取られてしまったケースもあります。ある健康食品会社が、5年間使ってきた商品名を、突然他社に商標登録されてしまい、商品名を変更せざるを得なくなったんです。それまでの宣伝費が全て無駄になってしまいました。
商標登録には1区分あたり約3〜5万円かかりますが、後からトラブルになる費用に比べれば安いものです。事業で使う商標は、早めに登録しておきましょう。
トラブル3:個人情報の漏洩・不適切な管理
顧客情報や従業員情報などの個人情報の取り扱いには、細心の注意が必要です。個人情報保護法違反は、罰則もあります。
あるオンラインショップが、顧客のメールアドレス1,000件を誤って他の顧客に送信してしまいました。個人情報の漏洩です。謝罪対応に追われ、さらに一部の顧客から損害賠償請求を受けました。信用も失い、売上が半減してしまったんです。
個人情報を扱う際は、以下の対策が必須です:
- 個人情報の取得時に利用目的を明示する
- 個人情報をパスワードで保護する
- 不要になった個人情報は速やかに削除する
- 従業員に個人情報保護の教育を行う
- プライバシーポリシーをホームページに掲載する
トラブル4:許認可の取得漏れ
事業によっては、開業前に特定の許認可を取得する必要があります。これを忘れると、営業できないどころか、罰則を受ける可能性もあります。
ある飲食店が、食品衛生責任者の資格を取らずに開業してしまいました。保健所の立ち入り検査で発覚し、営業停止処分を受けてしまったんです。開業資金を使い果たした後だったので、そのまま廃業せざるを得ませんでした。
許認可が必要な主な業種:
- 飲食店:食品衛生責任者、飲食店営業許可
- 美容室・理容室:美容師免許・理容師免許、開設届
- 建設業:建設業許可(500万円以上の工事を請け負う場合)
- 古物商:古物商許可(中古品の売買をする場合)
- 人材派遣業:労働者派遣事業許可
自分の事業に許認可が必要かどうか、必ず事前に確認してください。管轄の役所や専門家に相談するのが確実です。
トラブル5:雇用契約・労働条件の不備
従業員を雇う際に、労働条件通知書や雇用契約書を交わしていないケースも多いんです。これは法律違反です。
ある小売店が、アルバイトを口頭で採用し、労働条件通知書を渡していませんでした。数か月後、そのアルバイトから「聞いていた給料と違う」「残業代が払われていない」とクレームが入り、労働基準監督署に通報されてしまったんです。結果、未払い残業代50万円と罰金を支払うことになりました。
労働条件通知書には、以下の内容を明記する必要があります:
- 労働契約の期間(正社員、契約社員など)
- 勤務場所・業務内容
- 労働時間・休憩時間・休日
- 賃金(基本給、残業代の計算方法)
- 退職に関する事項
雇用契約書のテンプレートは、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。必ず書面で交わしましょう。
■ 法務トラブルを防ぐ3つの鉄則
ここまで法務トラブルの事例をお話ししてきましたが、「じゃあ、どうすればトラブルを防げるの?」と思いますよね。私がお勧めしている3つの鉄則をご紹介します。
鉄則1:何でも「書面化」する習慣をつける
口約束は証拠になりません。契約、取引条件、労働条件、すべて書面で残す習慣をつけましょう。
「相手との関係が悪くなりそう」と心配する方もいますが、逆です。きちんと書面化することで、お互いの認識のズレを防ぎ、信頼関係が深まります。プロの証でもあるんです。
鉄則2:「知らない」は言い訳にならないと自覚する
法律は「知らなかった」では済まされません。経営者である以上、最低限の法律知識を身につける責任があります。
とはいえ、すべての法律を理解するのは不可能です。だからこそ、自分の業種に関係する法律だけでも、基本を押さえておくことが大切なんですね。
鉄則3:困ったら専門家に「早めに」相談する
法務の専門知識がない場合は、無理に自分で解決しようとせず、弁護士、司法書士、社会保険労務士、税理士などの専門家に早めに相談しましょう。
「相談料がもったいない」と思う方もいますが、トラブルになってからの解決費用は、相談料の何十倍にもなります。弁護士相談は初回30分5,000円程度ですが、訴訟になれば着手金だけで30〜50万円かかることも珍しくありません。
私たち税理士も、税務だけでなく、創業に関する法務の基本的なアドバイスはできます。「どの専門家に相談すべきか分からない」という場合は、まず税理士に相談してみてください。適切な専門家をご紹介することもできますよ。
■ まとめ|「備えあれば憂いなし」が法務の基本
法務トラブルは、事前の備えで9割は防げます。契約書を作る、許認可を確認する、個人情報を適切に管理する——こうした当たり前のことを、当たり前にやるだけなんです。
創業期は、資金や人材など限りあるリソースを効率的に活用する必要があります。でも、法務だけは手を抜いてはいけません。ここでケチると、後で何倍もの代償を払うことになるんですよね。
もし法務について不安や疑問がある方は、一人で悩まず、ぜひ専門家にご相談ください。適切なアドバイスを受けることで、将来的なリスクを回避し、安心して事業の成長に集中できる環境を整えましょう。あなたの事業が、法的に守られながら成長することを、心から応援していますよ。
創業時の法務相談や、適切な専門家のご紹介については、こちらからお気軽にどうぞ。
